一般意志2.0 ルソー、フロイト、グーグル

一般意志2.0 ルソー、フロイト、グーグル

一般意志2.0 ルソー、フロイト、グーグル

買ったものの中々読めてなかったが、帰省中に集中的に読んだ。筆者が最初に「夢を語ろうと思う」と書かれているとおり、現時点ではかなり夢なことだろう。現時点ではやはり、仕様が定まらないところが多い。
ルソーの一般意志の概念は非常に面白く、考慮の余地がある。全体意志と一般意志の区別なども面白い概念だと思う。
一方でこれまではカントはやはり実際には存在し得ないものとして捉えていたし、古代ギリシャをモチーフにしたアーレント、討議を中心に据えたハーバーマスなどの議論からは算出されない概念であった。モダン、もしくは「未完のプロジェクト」として公共圏の課題を捉えたひとは多いし、僕自身も基本的にはそういう理想をまだ持っているのは事実である。この延長戦上には投票の権利と義務や、公共の場における議論、そしてそれをしやすくなる情報技術という展開はある。
しかしこの本で取り上げているのは、そうではなくて、むしろ熟議民主主義の限界についてであって、その批判そのものにはうなづける点が非常に多い。むしろコミュニケーションレス、無意識というルソーの観点を押し出しているのが印象的。多様性がもたらす知恵のようなものは、『「みんなの意見」は案外正しい』などでも紹介された、既に長い概念ではあるものの、それが無意識と接続されるのがポイント。
また一般意志2.0が全てに適用されるというわけではなく、限定的な(制約として捉える)という視点も非常にバランスの取れていて、印象的なところ。またビジネスの現場においても、マーケティング的な文脈でソーシャル情報が価値を生み出す事例は増えてきている。一方でのプライバシーとの問題については、つい先日に読んだ『パブリック』(ここでの紹介記事)も関連していて面白い。
ただ難しいのは、やはり具体的な実装のところで、単純に話を進めていい訳は無く(無論、そんなことは筆者は書いていない)、そもそもの「一般意志2.0を意思決定に用いる」という合意をつけるためにも、具体的な実装とそれによる成果を考えていく必要がある。
ノージックの「ユートピアのためのフレームワーク」についても書かれているとおり、リバタリアニズムリベラリズム、個人と集団の関係について非常に示唆に富んだ話だ。個人的には民主主義という側面より、先述の視点で読んだ。サンデルの議論が一時流行ったが、あわせて読んでみたらよい本。